さて、小集団活動を具体的に進めるために、「集団決定法」という方法を紹介しましょう。
集団決定法とは、集団での話し合いに加えて、メンバー一人ひとりが「私はこういうことをするぞ」と意思表示する方法です。つまり、集団決定=集団での話し合い+一人ひとりのメンバーの意思表示ということになります。
集団決定法が、始められたのは、第二次世界大戦中のアメリカで、「グループ・ダイナミックス(集団力学)」の創始者として有名なクルト・レヴィンが行った実験(戦争で肉不足の折、主婦たちに内蔵調理をするように働きかけた実験。当時アメリカには内蔵を調理する習慣がなかった)が最初だといわれています。以後、多くの実験の結果、非常に、集団や集団のメンバーの意識や意欲を高める効果がある方法だとわかりました。
では、何がその効果を高めたのでしょうか。
メンバーの意識の高まり
人は、他人事だと思ったら興味や関心をもつことすらしない傾向にあります。選挙を思い出してください。投票率の高いときもあれば低いときもあります。高いときは、多くの人たちが、社会情勢に興味や関心を寄せているという証拠です。低いときは、多くの人にとってどうでもよく、他人事として捉えているときなのです。人というのはそんなものなのです。あなたの身近なところにも、こういったことがたくさんあるのではないでしょうか。
ですから、集団での話し合いには、できるだけたくさんのメンバーが参加できるように配慮することが大切になります。たくさんのメンバーといっても、話し合うときは、もちろん小集団の形を取ります。複数の小集団を作ったらいいわけです。そして、具体的に自分の問題として、想像をめぐらせて考えてもらうのです。そうすることによって、メンバーが「自分自身の問題」であることに気づき、意識するようになるのです。自分自身の問題である意識が強ければ強いほど、真剣に考えるようになります。
不安の共有
また、集団だと自分以外に複数のメンバーがいますので、いろいろな意見を聞くことができます。メンバーにはそれぞれ個人的な思いがあるでしょう。必要性はわかったものの不安もあるでしょう。話し合いではそれを出し合い共有するのです。
管理者や上司が一方的に説明しただけでは、一人ひとりのメンバーの思いに寄り添ったものにはなかなかなり得ません。そうなると、メンバーが抵抗を感じることもよくあります。
一方、同じ状況の中にいて、同じ方向に向かっている集団では、不安や心配する気持ちをお互いに表現しやすいのです。また、人は、自分の気持ちを口に出し表現することができるとホッとします。その安心感を味わうことが大切なのです。
たくさんの意見や情報
集団だと、一人で考えるよりもたくさんの意見が出てきます。たくさんの情報も得ることができます。ここでは、以前示した「主観的な目」を大いに発揮してもいいわけです。つまり、自分自身が感じることを大いに表現するのです。たくさんの主観的な目が集まると、客観的な目に近づきます。ただし、リーダーは、メンバー同士の誹謗や中傷を避けなければいけません。あまりにもマイナスの感情が爆発したような意見が出ることも避けなければいけません。ここは、リーダーの力量が最も問われるところです。
それぞれの立場からの意見や情報がたくさん出てくると、メンバーは、お互いに「なるほど、そういう見方もできるのか」と感じるようになります。つまり新たな気づきが生まれ、発想が広がるのです。また、「お互いに受け容れてもらった」という気持ちにもなります。そうして、さらに安心感が高まるのです。
新しい集団規範から生まれる意思表示
集団で話し合いをしているうちに「仲間意識」が生まれてきます。その雰囲気の中で、それぞれのメンバーが一人ずつ意思表示をします。みんなで話し合ったことを受けて、「私はこうしたい」「私ならこれができる。明日からやってみようと思う」などです。頭の中で密かに決意するのではありません。あくまでも言葉に表して意思表示をします。これは、仲間への約束になるのです。
私は、少人数の研修では、最後に必ずやっていますが、この仲間に対して約束をする時間は、私も含めてメンバーが一体感を感じる心地よい時間になっています。その集団の中には、「みんなそれぞれ頑張ろう」という新しい規範ができているのです。この規範ができれば、各自それぞれの仕事に散っていっても「仲間への約束」を守ることができるようになるのです。日本人の文化特性でみてきた恥の文化、「誰も見ていないから、しなくても大丈夫」ということにはならないのです。
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