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対人援助のお勉強ブログ 2011年11月~2012年2月

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2012年02月21日(火)

『ふれあいケア』2011年8月号③

 問題解決に向けて

 

・専門性の違い

 小柴さんは、柳田さんと宮本さんの話をよく聴きました。すると、個人的な価値観の違いというよりも専門性の違いからくる衝突だということがわかってきました。

 介護現場では、福祉職と医療職が一緒に仕事をしています。特に、介護職と看護職は、日常的に常に一緒に仕事をしています。両者は、専門性が違います。今まで勉強してきたことが違うのですから、違って当然なのです。専門性が違うと、同じ状況を見ても、その捉え方が違います。ですから、お互いに納得できないということが起こるのです。

 お互いに自分の専門性に従って主張をするとかみ合いません。かみ合わないと、お互いにさらに強く自分の考え方を主張します。そうなると、どこまで行っても平行線なのです。

 自分の考えを主張している間は、「相手のことをわかろう」という気持ちはありません。「相手にわからせよう」という気持ちしかないということです。これでは、お互いにストレスを感じるばかりです。

 

・「主張し合う」のではなく「聴き合う」

 そこで、「主張し合う」のではなく「聴き合う」ということが大切になるのです。今回の場合、考え方の相違は、専門性の違いから生じているのであって、両者とも間違っているわけではありません。「この人の専門性ってどのようなものだろう」ということに関心をもち、お互いに聴き合うのです。そして、お互いの専門性を理解します。その上で、同じ方向を見ることができるように話し合うのです。

 小柴さんは、両者の専門性を認めた上で、足らないところも指摘しました。介護職の健康に対する意識が低いこと、宮本さんが「利用者は暮らしの場での主人公」という捉え方ができていないこと。これらは、お互いに指摘し合って高め合う必要があります。そして、違う職種であっても、目的を共有し、役割分担をするのです。

 

 今回は、「専門性の違いを理解する」という観点から考察しました。違う職種が一緒に働いている以上、何らかの衝突は避けることができません。そのつど、お互いに聴き合い、専門性の違いを理解し合い、同じ方向を見ることが大切なのです。




2012年02月17日(金)

『ふれあいケア』2011年8月号②

宮本香江の考え方

 私は、長い間、救命救急センターで働き、たくさんの命を救って来ました。でも、同じくらいたくさんの命が失われるのも見てきました。働き盛りの人たちもいました。幼い子どもを残して死んでいく母親もいました。まだこれから人生を楽しむだろう若者たちもいました。私は、命の尊さを、身をもって知ることができました。

 確かに、武田さんは、昨日から血圧は安定しているし、今日お風呂に入ったからといって、死ぬわけではないでしょう。20年以上も前だけど、武田さんは脳血管の病気で倒れたのです。体は不自由になったけれど、運良く命には別状がなかった。だから、その命を大切にしてほしいのです。今回血圧が上がったのは、脳血管の病気とは無関係だけど、血圧が高くなりやすい体質なんだから、健康を意識してほしいのです。健康で長生きしようと思うなら、日頃から体を大切にしてほしいのです。そのことを伝えるためにも、武田さんにはわざと厳しく対応しているのです。

 病院なら、そのことを患者さんに教えるために、医師から指示を出してもらい、看護師は徹底して患者さんに伝えます。でも、施設では、医師は常駐していませんので、私が事実上責任をもって、利用者さんにそのことを教えていかないといけません。

 前から、思っていたのですが、介護職の人たちは、その意識があまりないようです。こんなことでは、利用者さんの命や健康を守っていけないように思います。

 

本沢奈都子と柳田啓介に共通する考え方

 私たちは、介護職として利用者さんの暮らしを支えています。ここは特別養護老人ホームですが、利用者さんにとっては「家」です。何らかの事情があって、本当の自分の家では暮らせないから、この「家」で暮らしているのです。ですから、できるだけ本当の自分の家で暮らしているような感覚で暮らしてほしいと思っています。

 宮本さんが言われることはよくわかります。でも、ここは病院ではないのです。病院なら病気を治すことを第一に考えて当然でしょう。お風呂に入ることを避けた方がいいのであれば、医師や看護師の判断でそうすべきだと思います。

 でも、ここでは、その判断はできるだけ利用者さんがすべきだと思います。武田さん自身、もうお風呂に入っても大丈夫だという確信があるのでしょう。医療の専門家ではないですが、私たちも大丈夫だと思います。武田さんは、お風呂が大好きなんです。その楽しみを奪ってはいけないと思います。

 

小柴自身、介護職として長年勤めてきたので、本沢や柳田と近い考え方だった。しかし、宮本の考え方もよくわかる。確かにこの施設の介護職には、利用者の健康に対する意識が薄いように思う。

小柴は、柳田と宮本、双方の話を十分聴いた上、しばらく3人で意見交換をし、宮本に言った。「確かに、私も含めて介護職の意識は低いように思います。宮本さんの話を聴いて反省しました。ですから、意識が高まるように、どうぞこれからも介護職に指導してください。ただ、ここは利用者さんの暮らしの場であることをご理解いただきたいのです。本当に命の危険があるような場合はともかく、そうではない場合、利用者さん自身が、適切な判断ができるように十分な説明をしてほしいのです。利用者さんは暮らしの場での主人公です。決して治療や指導の対象ではありません。宮本さんは、医療の専門職ですから、命の危険があるかどうかの見極め、十分な説明、いざというときの対応、そして、できるだけ利用者さんの楽しみが叶うように専門性を発揮してほしいのです。こうした考え方を共有できないでしょうか。不都合があれば、そのつど話し合いましょう」。




2012年02月14日(火)

『ふれあいケア』2011年8月号①

・小柴 礼子(33歳) フロア主任

大学を卒業し、N園に就職。N園が増築された2年前に主任になる。スーパーバイザー養成研修を受講し、後進の育成や職場のよい環境作りに日々奮闘している。

 

・柳田 啓介(28歳) 6年目の介護職 ユニットリーダー

大学を卒業し、N園に就職。少々気弱なところがあるが、冷静で思慮深くまじめであるため、昨年ユニットリーダーに抜擢された。

 

・宮本 香江(42歳) 看護師

以前は、救命救急センターに勤務していた。非常に優秀な看護師である。家庭の事情により、変則勤務の緩やかなN園に就職した。

 

・本沢奈都子(22歳) 新人介護職

大学を卒業し、この春N園に就職。大学では、援助関係について深く学んだ。感情移入しやすいが、その性格をうまく活かし、よい援助関係を築こうと頑張っている。

 

「あら、武田さん、今日はもう調子いいんですか?」

本沢奈都子は、入浴の用意をしている武田虎彦さんに声をかけた。

「宮本さんは、もう少し我慢しろって言ってたけど、昨日も今日も血圧は正常だったし、もういいだろ。わしは風呂と食事だけが楽しみなんだから・・・・」

「武田さんは、お風呂大好きですものね」とは言ったものの、気になった本沢は、看護師の宮本香江に確かめた。

「まだダメよ!血圧が急に上がった日、1週間は入らないように言ったでしょ!あと23日の辛抱なんだから」

本沢が叱られてしまった。本沢は釈然としなかったが、仕方なく武田さんにそのことを伝えた。武田さんは、機嫌が悪くなり「今日はどうしても入る」と言い張った。困った本沢は、ユニットリーダーの柳田啓介に相談した。

柳田は、武田さんに確認し、宮本看護師にその気持ちを伝えた。しかし、答えは同じであった。柳田と宮本の不穏な空気を感じたフロア主任の小柴礼子が間に入った。




2012年02月07日(火)

『ふれあいケア』2011年7月号③

 問題解決に向けて

 

・トラブル解決で深まるつながり

 人はみな、生まれ育った背景が違いますので、価値観や性格も違います。その違いによるトラブルは、起こって当然なのです。むしろ、トラブルが起こらない方が不自然かもしれません。

 大切なことは、トラブルは避けるのではなく解決するということ。その渦中にいる当事者たちが自分たちの力で解決することができると、一気に当事者たちのつながりが深まります。つながりが深まると「仲間意識」をもつことができ、心地よく仕事ができるようになります。

 価値観や性格の違いによるトラブルを解決するためには、まず、自分自身の価値観や性格をしっかり振り返ることが大切です。「なぜ私は、島田くんの言葉遣いが許せないのか」「なぜ僕は、島田くんに注意ができないのか」「なぜ僕は、須藤さんから受けた注意を忘れてしまうのか」などを振り返ってみるということです。そうすると、その背景にある何かが見えてきます。そして、見えてきたものを当事者で共有し、お互いに「なるほど」と受け止め合います。それが、自己覚知につながるのです。

 

・鍵を握る人物の見極め

 今回、小柴主任は、心配だった須藤さん、そして、須藤さんの話題に出てきたすぐ下の部下であるユニットリーダー柳田くんの話を聴いてみました。しかし、自ら直接問題解決の行動には乗り出しませんでした。小柴主任は、「まだこの段階で、島田くんに直接指導をすることは控えた方がいい」、「今回鍵を握るのは、当事者でもありリーダーでもある柳田くんだ」と見極めたからです。

 柳田くんは、リーダーとしての役割を果たせないことで、須藤さんのひんしゅくを買っていました。何とか威厳を取りもどさないと、ユニット集団の統制が取れなくなってしまいます。

 そこで、柳田くんの話を聴いた上で、彼にできそうなことを提案してみました。柳田くんは、気弱で人に注意はできませんが、冷静で思慮深く、人の話を聴くことはできます。小柴主任は、うまく彼の特性を活かそうとしたわけです。

 島田くんは、柳田くんに毎日のようにかかわってもらうことで、自分の性格の傾向に気づき、改善の糸口をつかめるでしょう。須藤さんも、柳田くんとのかかわりが深くなることによって、彼を見直すでしょう。

 

 今回は、「自己覚知」の他に、重要なポイントとして「鍵を握る人物の見極め」を取り上げました。組織や集団でのトラブルは、一筋縄で解決することはできません。複数の職員の「違い」から生じるもつれがあるからです。今後もさまざまなパターンの問題解決をみていきたいと思います。




2012年02月04日(土)

『ふれあいケア』2011年7月号②

須藤公子の気持ち

 私の両親は厳しくて、特に年長者への言葉遣いは厳しくしつけられました。学生時代にもクラブ活動で、顧問の先生や先輩への言葉使いはずいぶん厳しく指導されました。島田さんの言葉遣いはいったい何ですか?あの子の親はどんなしつけをしてきたのでしょうね。最初は優しく注意をしていたのですが、もう我慢の限界です。

 柳田さんは、リーダーだから、きちんと島田さんに注意してくれると思ったのですが、彼は全然駄目です。気が弱いというか何というか、人に注意するということができないのです。本当に情けないと思います。

 

小柴は、須藤の話を聴いて、須藤への対応や島田への指導など、柳田がリーダーとしての役割を果たせるようにしないといけないと思い、柳田の話を聴くことにした。

 

柳田啓介の気持ち

 島田くんの言葉遣いは、僕も問題だと思います。でも、彼は、ああ見えても利用者さんに人気があるのです。とっても愛想がいいですからねえ。それに結構気もつくのです。須藤さんに注意されてもすぐ忘れてしまうところも、彼のいいところのような気がします。僕は、子どもの頃から人に注意されること自体が恐くて、無意識のうちに注意されないように気をつけているのです。悪く言えば、人の顔色をうかがっているようなところがあります。ですから、僕にとっては、島田くんはうらやましい性格をしています。僕は、そんな性格なので、人に注意することも躊躇してしまいます。

 

 小柴は、柳田が島田に注意できない理由がわかった。子どもの頃、何かがあって、人に注意すること自体がとても苦手なのだ。また、柳田自身、島田の性格をうらやましいと思っている。島田に注意することを無理強いすると、柳田はまじめだし、プレッシャーが大きくなるだろう。

そこで、小柴は考えた。柳田は、注意ができなくても話を聴くことはできるはずだ。

須藤には、「島田に対してなぜ腹立たしく思うのか。それはどこからきているのか」。そして、島田にも、「須藤に注意をされるときはどんな気持ちなのか。つい注意されたことを忘れてしまうのはなぜなのか」を聴くように促す。

また、話を聴くのは一度きりではなく、しばらくの間は毎日のように、両者に対して、「今日はどうだったか」を聴くようにすればどうか。

柳田が、両者の話を毎日のように積極的に聴くことによって、須藤は、「柳田が積極的に対応している」と感じるのではないか。島田も、須藤から受けた注意をつい忘れてしまうことがなくなるのではないか。また、柳田がリーダーとして役割を果たせるのではないかと考えた。

小柴は、以上のことを柳田に提案してみた。すると、柳田は、「それならできると思う」と、さっそく両者の話を聴いてみることにした。




2012年02月01日(水)

『ふれあいケア』2011年7月号①

・小柴 礼子(33歳) フロア主任

大学を卒業し、N園に就職。N園が増築された2年前に主任になる。スーパーバイザー養成研修を受講し、後進の育成や職場のよい環境作りに日々奮闘している。

 

・柳田 啓介(28歳) 6年目の介護職 ユニットリーダー

大学を卒業し、N園に就職。少々気弱なところがあるが、冷静で思慮深くまじめであるため、昨年ユニットリーダーに抜擢された。

 

・須藤 公子(48歳) パート職員

10年程ホームヘルパーをしていた。N園が増築された2年前から遅出専門のパート職員をしている。迅速で丁寧な仕事ぶりは他の職員に一目おかれている。律儀深い。

 

・島田 省吾(21歳) 2年目の介護職

専門学校を卒業し、N園に就職。少々言葉遣いが荒っぽく、周囲の誤解を招くことがあるが、親しみやすい性格で利用者には人気がある。

 

 

「金本さん、俺、洗濯物、取り入れといたから、部屋に持っていっといて!」

 島田省吾の声が聞こえてきた。須藤公子は、この頃、島田の利用者など年長者への言葉遣いにイライラしていた。

「島田さん、金本さんは利用者さんだし、あなたよりうんと年長なんだから、もうちょっと丁寧な言葉を遣ったらどうなの!」

 何度も注意をするが、一向に改まらない。「すみません。以後気をつけます」と、そのときだけは調子がいい。須藤は、島田のそんな態度にも腹立たしく思っていた。

須藤は、ユニットリーダーの柳田啓介に注意をするように進言した。しかし、気弱なところがある柳田は、積極的に動かない。須藤は、若い職員への呆れと軽蔑の感情が高まり、仕事への意欲が低下してきた。

須藤の様子を心配したフロア主任の小柴礼子は、須藤の話を聴くことにした。




2012年01月26日(木)

『ふれあいケア』2011年6月号③

 問題解決に向けて

 

 感情がもつれると、もはや理屈では処理できません。フロアの雰囲気にも悪い影響を及ぼしてきたということは、両者のよくない関係が増幅してきたということです。このまま当事者二人に任せておくと、もはやよい方向には向かないでしょう。利用者にも悪い影響が及ぶかもしれません。この問題を解決するためには、フロアの責任者である小柴主任の対応が鍵を握ります。

 両者とも、自分の立場に立って小柴主任が話を聴いてくれたことによって、素直に気持ちを表現することができました。気持ちを表現すると、そのプロセスで、自分の気持ちに改めて気づくことができます。それは、自分の人生を振り返ることにもつながるのです。そうすると、自分自身の感情や価値観が形成されてきた背景が見えてきます。背景、つまり今の感情や価値観が生じてきたメカニズムが見えてくると、人は気持ちが落ち着き、自分の感情や価値観をコントロールすることができるようになるのです。これを「自己覚知」といいます。(ただし、自分自身の嫌なところと向き合ってしまい、つらくなることもありますが、これについては、別の回で紹介することにします。)

 以後、小柴主任の仲立ちがあり、両者がお互いに相手の感情や価値観が生じてきたメカニズムを知ることができると、両者とも「なるほど」と思うことができます。それは、自分とは違う相手の存在を認めることにつながるのです。相手の存在を認めるということは、自分自身の感情や価値観を脇に置き、相手の立場に立って相手を理解することができたということ。これこそが「自己覚知」なのです。

自己覚知は、相手が利用者であれ、職員であれ、「違い」のある人たちと良い関係を作るためには、どうしても必要になってきます。なかなかできないことですので、援助者にとって永遠のテーマともいえるのですが、少しでも深まるようにプロの援助者として意識しておきたいものです。

今回は、本沢さんと江藤さん、二人のトラブルを紹介しましたが、職場集団には、単なる二者関係ではなく、もっと複雑な人間模様が存在します。今後、さまざまなパターンの職場の人間関係から生じるトラブルをどのように解決していくのかを考えていくことにより、自己覚知の重要性を深めていきたいと思います。




2012年01月23日(月)

『ふれあいケア』2011年6月号②
本沢奈都子の気持ち 

 大学では、「よりよい援助関係のあり方」をテーマとした研究に取り組んできました。相手の言動には必ず意味があります。私が「いけないことだ」と思っても、私の気持ちは脇におき、「この人は、どうして私がいけないと思うことをするのだろう?」と相手の言動に関心をもって話を聴かないといけません。私はそう勉強しました。そうすることで、相手との関係がよりよいものになっていく。そう信じていました。

 江藤さんの片岡さんへの対応は、私が大学で学んだものとはかけ離れたものでした。まず、甲高い声を出して、片岡さんを叱りつけることに憤りを感じました。というか身がすくみました。私は、今まで両親にもあんなふうに叱られたことがありません。子どもの頃から、あんな叱り方をしてはいけないものだと思っていました。それに、心のどこかであんな叱り方をする人を軽蔑していたようにも思います。

 でも、先輩を批判してはいけないと思ったので、詰所でそれとなく訊いてみました。実は、主任がそこにいたことを承知で訊いたのです。ずいぶん意地悪だったと反省しています。

 江藤さんは、きつく私を責めました。その後も江藤さんの私への態度は、本当に冷たいものです。予想以上の冷たさにびっくりしています。今は、あのときに責められて釈然としなかった気持ちよりも、これからどうやって江藤さんと一緒に仕事をしていこうかと悩んでいます。


江藤直美の気持ち 

私は、N園に勤めて5年目になりますが、3年目ぐらいにようやく自分のペースをつかめてきたように思います。ずいぶん時間がかかりました。とても業務量が多く、私が新人の頃は、業務を覚えるだけではなく、どうすれば要領よくこなすことができるかと考えていました。時間内に業務を終えないと先輩たちに迷惑をかけてしまうからです。本沢さんは、利用者さんとたくさん話そうと頑張っています。利用者さんも本沢さんを慕うようになってきています。それはいいのですが、彼女には、山積みの業務を要領よくこなそうという気が全くないように見えます。結局私たちに迷惑をかけているのです。私の新人の頃とは大違いです。

つい、カッとなって片岡さんを叱ってしまったことは、主任に注意されるまでもなく反省しています。でも、実は、あのときの洗濯室のチェックは本沢さんの仕事だったんです。あとでしようと思っていたのかもしれませんが、私が別の用事で洗濯室に行くとまだできていませんでした。ですから、本沢さんに対してイライラしていたんです。いけないことですが、そのイライラを片岡さんにぶつけてしまったように思います。

それから、これは言いにくいのですが・・・。本沢さん、みんなに人気あるでしょ。利用者さんにはもちろんですが、職員にも・・・。主任もずいぶん彼女をかわいがってらっしゃるように思うんです。私、負け犬みたいで・・・こんなこと言う私自身、嫌なんですけどね。嫉妬をしてしまうことは、子どもの頃からのコンプレックスなんです。




2012年01月20日(金)

『ふれあいケア』2011年6月号①

 ある日、本沢奈都子が、軽い認知症の利用者、片岡綾乃さんの部屋の前を通り過ぎると、江藤直美の甲高い声が聞こえてきた。

「また紙オムツを洗濯したんですか?これは捨てるものだって、何回も説明したでしょ!洗濯機の中、ぐちゃぐちゃじゃないですか・・・」

「もったいないから洗ったんですよ・・・」

江藤は介護職に就いて5年目。時間に追われる中、自らの努力により要領よく介護をするコツをつかんできた。

「片岡さん、紙オムツを洗濯されるんですねえ」

 詰所にもどってきた江藤に、本沢は声をかけた。

「そうなのよ、何回も説明してるのに本当に困ったものでね」 

「片岡さん、江藤さんに叱られて、とても悲しそうな顔されてました・・・・」

「あら江藤さん、片岡さんを叱ったの?」

 記録をチェックしていたフロア主任の小柴礼子が驚いたように言った。

「すみません。何回も説明しているのに、わかってもらえなくて、思わず叱ってしまいました」

「片岡さんは、すぐに忘れてしまうのよ。根気よく教えてあげてね」

 そういうと、小柴は詰め所を出て行った。

「本沢さんが余計なことを言うから、主任に注意されたじゃないの!」

「すみません・・・」

 江藤にきつい口調で責められた本沢は、釈然としなかったが謝るしかなかった。以降、江藤の本沢への態度は、冷たいものとなり、二人の関係はフロアの雰囲気にも影響を及ぼし始めた。

 

小柴礼子は、フロア主任として「何とかしなければいけない」と思い、本沢奈都子と江藤直美双方の話を聴くことにした。




2012年01月13日(金)

『ふれあいケア』2011年5月号③

○このコーナーに登場する特別養護老人ホームN園の職員たち

  ・小柴 礼子(33歳) フロア主任

大学を卒業し、N園に就職。N園が増築された2年前に主任になる。スーパーバイザー養成研修を受講し、後進の育成や職場のよい環境作りに日々奮闘している。

 

 ・本沢奈都子(22歳) 新人介護職

大学を卒業し、この春N園に就職。大学では、援助関係について深く学んだ。感情移入しやすいが、その性格をうまく活かし、よい援助関係を築こうと頑張っている。

 

  ・島田 省吾(21歳) 2年目の介護職

専門学校を卒業し、N園に就職。少々言葉遣いが荒っぽく、周囲の誤解を招くことがあるが、親しみやすい性格で利用者には人気がある。

 

  ・江藤 直美(25歳) 5年目の介護職

専門学校を卒業し、N園に就職。人に迷惑をかけることが大嫌い。少々ヒステリックなところがあるが、仕事に対しては前向きで努力家である。

 

  ・柳田 啓介(28歳) 6年目の介護職 ユニットリーダー

大学を卒業し、N園に就職。少々気弱なところがあるが、冷静で思慮深くまじめであるため、昨年ユニットリーダーに抜擢された。

 

  ・須藤 公子(48歳) パート職員

10年程ホームヘルパーをしていた。N園が増築された2年前から遅出専門のパート職員をしている。迅速で丁寧な仕事ぶりは他の職員に一目おかれている。律儀深い。

 

  ・宮本 香江(42歳) 看護師

以前は、救命救急センターに勤務していた。非常に優秀な看護師である。家庭の事情により、変則勤務の緩やかなN園に就職した。

 

  ・谷口 和代(58歳) 介護課長

N園が創設された21年前から勤務している。N園の沿革は知り尽くしている。強いリーダーシップを発揮し、何かにつけ影響力が大きい。

 

  ・森本 良也(52歳) 施設長

長年、病院でソーシャルワーカーをしていた。5年前、前施設長が退職するにあたり、法人より強く依頼され、施設長を引き受けた。温和な人柄である。




2012年01月10日(火)

『ふれあいケア』2011年5月号②

 来月号(20116月号)から20123月号まで、10回に渡り特別養護老人ホームN園で起こるさまざまなトラブルの物語を取り上げ、解決の糸口をつかむ方法を紹介します。

トラブルが生じる背景には、必ず職員間の複雑な人間模様が存在します。しかし、トラブルの渦中にいる職員は誰一人として間違ってはいません。そのときそのとき、相手に嫌な感情を抱いたり、葛藤を抱えたりするのは、紛れもなく正直な心の反応なのです。正直な心の反応ですから間違っているはずはないのです。

 また、関係が崩れるとき、あなたか相手かのどちらかが一方的に悪いということはあり得ません。要するに、あなたと相手との間に存在する「関係」の問題だからです。自ずと違いがある者同士ですから、よい関係を築くためには、その違いを認め合うことが大切になります。「相手が自分を認めてくれているのだから、私も相手を認めよう」。こうした気持ちになるためには、お互いに相手をよく知るということが大切なのです。

 物語では、トラブルの渦中にいる職員の気持ちやその背景を描写していきます。あなたは、それを読んで、自分に当てはめてみてください。あるいは、自分を振り返るきっかけにしてください。何かに気づくと思います。これが「自己覚知」の入口なのです。

自己覚知とは、自分自身の感情や価値観の傾向を知った上で、それをコントロールして相手とかかわること。あなたにも相手にも、それぞれ今の感情や価値観が生まれた背景があります。最初は、相容れない違いから、お互いに相手に対する不平不満が生じます。しかし、自分や相手の背景を知ることによって、あなたも相手も穏やかになるきっかけをつかむことができるようになるのです。

このコーナーをヒントにして、あなた自身、職場の人間関係をよいものに変えていく仕掛け人になってくださることを期待しています。




2012年01月07日(土)

『ふれあいケア』2011年5月号①

職場の人間関係は、あなたが気持ちよく仕事をすることができるかどうかの鍵を握ります。また、あなたと利用者さんとの援助関係がよいものになるかどうかにも大きな影響を及ぼします。つまり、元気に笑顔で仕事をし、利用者さんに質の高い援助を提供するためには、職場のよい人間関係が必要なのです。

 

○職場の人間関係から生じるストレス

介護をはじめとして対人援助の仕事に就く人は、ストレスを溜め込みやすいといわれています。深刻なのが、職場の人間関係から生じるストレス。職場では、あなたはいろいろな違いのある人たちと一緒に仕事をしています。

・専門性の違い

例えば、介護職と看護職は、今まで勉強してきたことがまったく違います。つまり専門性が違います。ですから、同じ一人の利用者さんを見ていても、その問題の捉え方が違うのです。

・立場の違い

例えば、管理者と最前線で働く介護職は、立場が違います。管理者は管理的な目でものを見ます。最前線の介護職は、管理的な目でものを見ているとかえって仕事にならないことが多いのです。

・性格や価値観の違い

 同性同士、同じ職種、同じ経験年数であっても、性格や価値観が違います。抱えている人生が違うからです。この違いによる衝突が最も深刻なストレスをもたらします。「あの人とは生理的に合わない」というのは、この違いによるものが大半だといってもよいでしょう。

 

 こうした「違い」から、あなたと相手との間に意見の食い違いが生じたり、衝突したりします。やがて感情がもつれ、お互いに腹が立つ。人間、腹が立つとしんどいものです。そして、それがストレスとなり、心や体に支障をきたす(燃え尽き症候群)ことになるのです。

 

○援助関係に影響を及ぼす職場の人間関係

 利用者さんとのよい援助関係を築くためには、バイステックの原則に代表されるように、例えば、受容(受け容れる)の態度や非審判的(裁かない)な態度などが求められます。しかし、こうした態度をとるためには、あなた自身、日頃から「受け容れられる」、「裁かれない」という感覚を味わい、身をもって確認する必要があります。

職場の人たちから突き放されたり、批判されてばかりいると、受け容れられる感覚や裁かれないという感覚を忘れてしまいます。そうすると、当然、利用者さんに対して、受け容れたり、裁かないという態度をとることができなくなります。

 つまり、利用者さんとのよい援助関係を築くためには、日頃の職場の人間関係をよくする必要があるということなのです。




2012年01月06日(金)

あけましておめでとうございます
 10日間ほど冬眠をしておりました(忘年会やゴルフ、新年会も冬眠のうち・・・・)。ボチボチ仕事を始めようと思います。大学に専任で勤めていたときには考えられないようなスケジュール。ずいぶん人間らしい暮らしになったものです。

 さて、明日から新しいシリーズを掲載したいと思います。昨年5月から、全社協が出版している『ふれあいケア』という介護情報誌に連載をしています。職場の人間関係から生じるトラブルをいかに解決していくか・・・・・といった内容なのですが、主題は、トラブル解決をを通して、職員集団をいかに強固な仲間集団として育てていくのか、そして、人間関係での疲れを解消していきたいということです。キーワードは「自己覚知」。
 何人かの方から、お勉強ブログに掲載してほしいとご要望をいただいています。介護情報誌ですから、購読されていない福祉関係の方も多いと思いますので、このブログで掲載していきたいと思います。



2011年12月22日(金)

長らくサボりましてすみません
 久しぶりのお勉強ブログ更新です。長い間サボっていまして申し訳ありませんでした。
 5月からシリーズ連載していましたものは、創元社より『続・対人援助職の燃え尽きを防ぐ 発展編 ~仲間で支え、高め合うために』として無事出版しました。組織やチームを仲間集団として育て、仲間で支えて高め合う具体的な方策を丁寧に解説しています。複数の専門職がチームで仕事をする際に生じる摩擦や、起きがちなトラブルを例示しながら、人間関係を修復して仕事仲間と協働で問題解決するための理想形を提案しています。前著と同様、対人援助職の皆様の一助となれば幸いです。

 さて、2011年も残りわずかとなりました。この1年を振り返ってみると、充実していたのか、そうではなかったのか、仕事は確かにたくさんしましたが、気持ちの上では何ともいえないところです。
 遠方への出張が多い仕事柄、今年は、意識的に「出張先でのんびり過ごそう」、「たまには一泊余分にしてぶらりと観光でもしよう」と時間的気分的ゆとりをもとうとしました。

 2月15日、三重県の最も和歌山県寄り、紀宝町で仕事。そのとき、8年ぶりに、『ホームヘルパー養成研修講師用マニュアル』(創元社)を一緒に書いた大西健二さんにお会いしました。久しぶりに同士に会ってとても嬉しかった。そして、3月9日、10日、再び紀宝町を訪れ仕事。そのついでに、大西さんに会った嬉しさを思い起こしながら、一人でぶらり観光。ところが、6月9日、大西さんの訃報・・・・・唖然としました。
 2月24日、何ども訪れていたのに一度も観光をしたことがなかった仙台を「ループル仙台」という循環バスに乗って、一人でぶらり観光しました。ところが、2週間後3月11日、大地震。何度も映し出される仙台空港に押し寄せる大津波・・・・・
 こんなことがあり、しばらく、何となく一人でぶらり観光をする気にもならず、よく言えば自粛していました。
 7月27日、28日、久しぶりに仙台を訪れました。仙台空港のがれきはすっかり撤去され、限定されてはいるものの、飛行機は障害なく発着していました。空港から市内への電車(仙台空港アクセス線)はまだ開通していませんでした。空港周辺にはがれきの山。ただ、がれきの山に青々と草が生い茂っていました。時間は流れていました。
 夏が過ぎ、東日本の復興はまだまだでしたが、普段の暮らしをしよう、そして、東北観光の呼びかけも増えていました。

 そんな折り、10月13日~15日、函館を訪れました。わずか90分の講演なのに、すでに入っていた4つの仕事を調整して2泊3日しました。久々に気分が晴れました。五稜郭、 函館名物イカ焼き、市場の一角にあるラーメン屋「かもめ」、100円バス、教会群、函館山からの絶景、市場での朝食1000円の「ウニカニ丼」、試食した生のトウモロコシ・・・・・見るもの触れるものが新鮮で、久しぶりのぶらり観光を満喫。そのとき、ふと思いつきました。来年春、仕事が一段落するときに、ホームページに『”こうえん”ぶらり旅日記』という新しいサイトを作ろう。今度は写真付きだ・・・・・
 11月10日、紀宝町の近く、大西健二さんのご自宅がある熊野市を訪れました。大西さんの遺影にお参りしてきました。思わず「大西さん・・・・」と声がうわずりました。大西さんにとっては3人目の孫をもうすぐ出産予定の娘さんと少しお話をしました。自己満足だったのかもしれませんが、お参りができてよかった。

 大西さん、大地震で亡くなられた多くの方々、ご冥福をお祈りします。

 今年の旅(講演出張)にまつわるエピソードは他にもたくさんたくさんあります。来年は、こうしたエピソードを紹介する『”こうえん”ぶらり旅日記』を新しく開設します。どうぞ、お立ち寄りください。
 もちろん、この『お勉強ブログ』も継続します。年内はお休みしますが、年が明けましたら、またお会いしましょう(^^)

 よいお年を・・・・・・ 



2011年11月15日(火)

まとめ

 組織やチームを仲間集団へと成長させる具体的な方法を紹介してきました。いずれにしても、リーダーの役割が大切になってきました。

ところが、「私は、リーダーではない」、あるいは、「リーダーにはなれない状況だ」という人も多いかもしれません。その場合は、無理をして、あなた自身がリーダーになる必要はないのです。本書を活用して、組織やチームを仲間集団に成長させようというきっかけを作ることに努力すればいいのです。いわば、あなたは、そのきっかけを作る仕掛け人なのです。そして、リーダーの役割は、上司なり先輩なり、また、ほかの専門職なり、その役割にふさわしい人に任せます、あるいは、お願いすればいいのです。

また、こうした考え方もできます。確かに、あなたが所属する組織やチームだけを見ると、とてもリーダーにはなれないし、仲間集団へと成長させることを言い出せない状況にあるかもしれません。でも、よく考えてみてください。あなたが悩んでいることを相談し、問題解決について一緒に考えてくれる仲間たちがどこかにいませんか。仕事として所属している組織やチームの枠を超えても構いません。学生時代に一緒に勉強した仲間たち、あるいは、何かの研修で知り合い、意気投合した仲間たちでも構いません。その仲間たちも、きっと何らかの悩みを抱えているでしょう。そうした仲間たちが、お互いのために知恵を出し合い、問題解決する方法を一緒に考える集まりをもつことはできないでしょうか。あなたは、その集まりのリーダーになることができるかもしれません。あるいは、その仲間の中に、リーダーにふさわしい人がいるかもしれません。そうした集まりでも、今まで示してきたような方法を活用することができます。




2011年11月11日(金)

グループワークの専門技術・・・・・リーダーの役割(5)

⑨お互いに助け合う仕組みを活用する

 メンバーに共通しているところだけではなく、違うところを明確にしようとすると、それぞれのメンバーの個人的な問題が出てくることがあります。お互いに助け合う仕組みを作る段階になれば、自ずと受容的な雰囲気ができていますので、個人的な問題を出しやすくなるということもあるのです。

 個人的な問題がメンバーから出てくることは、ほかのメンバーにとっても、自分自身の個人的な問題に気づくきっかけになります。たとえば、よく大声を張り上げ、怒鳴り散らす利用者Nさんのことで、チームのスタッフが話し合いをしているとしましょう。みな、対応に困っています。メンバーAが、「今、話し合いをしていて気づいたのですが、私は、子どもの頃から大声を張り上げ怒鳴る人を軽蔑していました。両親にそれはいけないことだと教えられてきたからだと思います。ですから、どうしてもNさんに嫌な感情を抱いてしまうのです」。それを聴いていたBが、「今、Aさんの意見を聴いてハッとしました。実は、一〇年前に亡くなった私の父親がNさんのような人でした。よく怒鳴られました。叩かれたこともよくありました。いつも父親に対してビクビクしていました。いつも顔色をうかがっていました。そんなことがあるので、どうしてもNさんが恐くて近づけないのです」。これらは、まったく個人的な問題です。Nさんへの対応で困っている背景には、こうした個人的な問題が潜んでいる場合が少なくないのです。ですから、リーダーは、それぞれのメンバーが個人的な問題に気づくように働きかけていきます。そして、それぞれのメンバーの問題解決のために、全員で話し合うのです。その話し合いの過程がとても大切になります。たとえば、Aの問題解決の話し合いが、ほかのメンバーの問題解決のヒントを生み出すことがよくあるからです。

 それぞれのメンバーの問題解決の方法が見つかれば、それを実践します。そして、次に集まったときに、実践してどうだったかということを、お互いほかのメンバーに報告をするように促すのです。

 

 九つに分けて、グループワークの専門技術について示してきました。これらは、一人ひとりのメンバーが、対人援助職として抱えている問題を克服し、専門性を発揮することができるように、組織やチームを仲間集団へと成長させる専門技術なのです。リーダーの役割だともいえます。




2011年11月08日(火)

グループワークの専門技術・・・・・リーダーの役割(4)

⑦グループを活性化する

 先ほど、集団を活性化するために、小集団活動や集団決定法を紹介しましたが、もう少し細かく。グループワークの専門技術を示すことにします。

 まず、話し合いなどをするたびに、メンバーから、「今日の話し合いはどうだったか」と感想や気づいたことを言ってもらいます。集団決定法では、「意思表示」をすることが大切でしたが、さらに、感想や気づいたことを言ってもらうとよりいっそう効果的です。なぜならば、一人ひとりのメンバーにしてみれば、自分では気づかなかったことに、ほかのメンバーが気づいていることもあるのです。それを聞くと、「なるほど、そういうこともあるのか」と発想が広がるのです。

また、さきほど、規範やルールによる圧力を強めたり弱めたりして、うまく活用すると書きましたが、必要に応じて、規範やルールを柔軟に変えていくことも、グループを活性化することにつながるのです。

 さらに、プログラムを工夫することも有効です。プログラムとは、グループで行われるあらゆる活動のことをさします。プログラムを工夫し、メンバーの関心を引き出す、あるいは、メンバーの関心のある活動を行います。初めてメンバーが集まったときに行う自己紹介一つとっても、そのやり方を工夫することで、メンバーの関心を大いに引き出すことができます。たとえば、これは、私がよくやる方法ですが、二人組を作り、お互いにインタビューし合って、お互いの情報を得ます。そして、ペアになった相手の人をほかのメンバー全員の前で紹介します。その際、インタビューをしてみてどのような印象をもったかも話してもらいます。この方法をずいぶん数多くやってきましたが、今までに、悪い印象を話した人は一人もいませんでした。

 プログラムで使う小物や道具も工夫します。ホワイトボードを使ったり、模造紙を使ったり、ときには、低い音量で音楽を流したり・・・いろいろと工夫をし、グループを活性化していくのです。

⑧お互いに助け合う仕組みを作る

 「お互いに助け合いましょう」と、常々声をかけていくのですが、それだけでは、現実的に助け合う仕組みを作ることはできません。お互いに助け合うには、リーダーとして、グループワークの専門技術を発揮する必要があるのです。

 まず、それぞれのメンバーが抱えている問題などの共通しているところと、違うところを明確にしていきます。たとえば、ある利用者さんのことで、チームの全員が困っているとしましょう。「困っている」という点では、共通しているのです。ところが、困っている気持ちの中味はみな違います。職種によっても違うでしょう。経験年数によっても違うでしょう。性別によっても違うでしょう。得手不得手、性格や価値観といった個人的な事情によっても違うでしょう。組織やチームのスタッフは、みな抱えているものが違うので、困り方は違って当然なのです。その違いを明らかにすることが大切なのです。そして、メンバーがお互いに違いを認識し、それぞれの困っていることを解決するために、みんなで考えるのです。

 そのためには、メンバー同士のコミュニケーションを活発にするということが大切になってきます。グループの初期の段階では、リーダーとそれぞれのメンバーの一対一のコミュニケーションが目立ちます。リーダーが質問し、メンバーAが答える。リーダーが質問し、Bが答える・・・といったパターンです。お互いに助け合う仕組みを作るためには、メンバー同士がコミュニケーションを取ることができるように働きかけます。たとえば、「今、Aさんがおっしゃったことについて、ほかの方々から、ご質問やご意見などをお願いします」などと促すのです。

 すると、自ずとリーダーの役割が変わってきます。メンバー自身がグループを運営するようになり、リーダーは裏方になってくるのです。




2011年11月05日(土)

グループワークの専門技術・・・・・リーダーの役割(3)

⑤サブグループを適切に取り扱う

 グループには、放っておいても必ずサブグループができます。サブグループとは、大きなグループの中にできる小さなグループのことです。どのような組織でも、役割分担をして業務を進めるために、「○○係」や「△△委員会」などのように、意図的にサブループを作ります。また、自然発生的なサブグループも必ずできます。たとえば、一緒に昼ご飯を食べるサブグループ、休憩時間には、喫煙所でたばこを吸うサブグループ、プライベートでよく飲みに行くサブグループ・・・・あなたの組織やチームにも必ずあるでしょう。

 まず、サブグループが組織やチーム、ほかのサブグループに対してどのような影響を及ぼしているのかを見極めます。よい影響、たとえば、組織やチーム、ほかのサブグループをうまく引っ張っているということであれば、そのまま維持しておいても支障はありません。ところが、いくつかのサブグループがお互いに排除し合っている場合など、組織やチーム全体によくない影響を与えていることもあるのです。

 そのような場合、プライベートはともかく、業務では、サブグループを意図的に作り替える必要があります。

⑥グループ内の葛藤を適切に取り扱う

 人が複数集まると、必ず孤立するメンバーが現れます。話し合いの場には出席しているが、まったく意見を言おうとしない。一人だけ椅子を引いて、輪の中に入ろうとしない・・・・などです。「たまたまその日、体調が悪くて孤立しているようだったが、次からはまったく問題がなかった」ということであれば、何も対処しないでもいいかもしれませんが、孤立している様子が続くようであれば、対処をする必要があります。

 まずは個別に、グループ、あるいは、ほかのメンバーに対して、何か引っかかりを感じていないかどうかを聴きます。そこで、その引っかかりが、もしグループ全体で話し合った方がよいと判断されれば、グループの話題として取り上げます。個人的な問題であれば、個別に対応を続けます。

 また、グループには、必ず何らかの形でメンバー同士のトラブルが生じます。表だって生じなくても、水面下で火花が散っているということはよくあることです。これは「グループ内に生じる葛藤」だといえます。リーダーは、そうした葛藤があることを知ると、「どうしようか」と悩むものです。しかし、葛藤は、避けて通るものではありません。解決するものなのです。避けて通っていれば、いつまでも葛藤はなくなりません。グループのメンバーが、話し合いをすることによって解決することができれば、よりいっそう強いつながりをもつグループに成長していくのです。

⑦グループを活性化する

 先ほど、集団を活性化するために、小集団活動や集団決定法を紹介しましたが、もう少し細かく。グループワークの専門技術を示すことにします。

 まず、話し合いなどをするたびに、メンバーから、「今日の話し合いはどうだったか」と感想や気づいたことを言ってもらいます。集団決定法では、「意思表示」をすることが大切でしたが、さらに、感想や気づいたことを言ってもらうとよりいっそう効果的です。なぜならば、一人ひとりのメンバーにしてみれば、自分では気づかなかったことに、ほかのメンバーが気づいていることもあるのです。それを聞くと、「なるほど、そういうこともあるのか」と発想が広がるのです。

また、さきほど、規範やルールによる圧力を強めたり弱めたりして、うまく活用すると書きましたが、必要に応じて、規範やルールを柔軟に変えていくことも、グループを活性化することにつながるのです。

 さらに、プログラムを工夫することも有効です。プログラムとは、グループで行われるあらゆる活動のことをさします。プログラムを工夫し、メンバーの関心を引き出す、あるいは、メンバーの関心のある活動を行います。初めてメンバーが集まったときに行う自己紹介一つとっても、そのやり方を工夫することで、メンバーの関心を大いに引き出すことができます。たとえば、これは、私がよくやる方法ですが、二人組を作り、お互いにインタビューし合って、お互いの情報を得ます。そして、ペアになった相手の人をほかのメンバー全員の前で紹介します。その際、インタビューをしてみてどのような印象をもったかも話してもらいます。この方法をずいぶん数多くやってきましたが、今までに、悪い印象を話した人は一人もいませんでした。

 プログラムで使う小物や道具も工夫します。ホワイトボードを使ったり、模造紙を使ったり、ときには、低い音量で音楽を流したり・・・いろいろと工夫をし、グループを活性化していくのです。



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