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対人援助のお勉強ブログ 2012.06~08

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2012年08月16日(木)

石だたみの会
 京都市東山区の「石だたみの会」。3つの地域包括支援センターの主任介護支援専門員さんが主催する任意の団体です。
 東山区で活動をする介護支援専門員さんの後方支援をするために、いろいろな研修会や交流会をしています。

 東山区は、高台寺や花見小路など、石だたみのところが多いそうです。

   夕焼け雲 五重塔 石だたみの鳩♪
   プラタナスの道で 君を待ちながら♪
      この街が好きさ 君がいるから♪
      この街が好きさ 君のほほえみあるから♪

 高石ともやさんの『街♪』。この石だたみも、東山区のどこかのことなのでしょう。学生時代、京都で過ごしたボクは、毎日歌っていたような・・・・・・

 石だたみの会では、毎年度、6~7回程度、研修会や交流会を開催しているようですが、今年度は、その内4回、ボクが担当することになっています。
 今日は2回目でした。1回目は、4月、事例検討会に向けて、対人援助の基本的な視点や態度について話をしました。
 今日は、実際に事例検討会をやってみました。ボクも含めて14人が事例検討会に参加し、あとの人は周りで観察する。いわゆる金魚鉢方式です。

 今日は、ターミナルの事例でした。ご本人やご家族は、ずいぶん葛藤されながらも人生の最後のステージを一生懸命に生きておられる。当事者はもちろん混乱されているのでしょうが、介護支援専門員さんも混乱して当然でしょう。当事者にいかに寄り添えるか、大切なことは、皆よくわかっている。
 でも、混乱している人に、そう簡単に寄り添えるわけではありません。混乱している人は、矛盾していることをおっしゃいます。それは葛藤している証拠。「いったいどうしろっていうのか」、そんな気持ちになってしまいます。葛藤している人に寄り添うのはしんどいですね。
 それに、ターミナルの人の場合、「こうすればよかったのではないか」「ああすればよかったのではないか」・・・・あとで反省しても、本人はもう帰ってこない。やはりしんどいですね。
 だからこそ、一人で抱え込まないようにしたいものです。介護支援専門員は、孤独です。組織やチームで、また地域で支援体制を作りましょう。



2012年08月13日(月)

合同フォローアップ研修会
 8月11日と12日、この10年来、各地で行ってきた「スーパーバイザー養成講座」の修了者たちを対象に、合同フォローアップ研修会を開催しました。今年度で5回目です。
 40数名の修了者たちが集まってくれました。例年、6月か7月の開催で、60名を超えるのですが、今回は、お盆前の土日ということが影響してか、少なめでした。

 11日、今回は、初めてワークショップという形で、参加型の演習を取り入れました。組織で仕事をしている以上、スーパービジョンをしていないということはあり得ないのですが、できていないと思い込んでいたり、うまくいかないから、スーパービジョンを意識しないようになっていたり、ということがあるようです。確かに理想的なスーパービジョンをやろうと思えば、壁や障害があるでしょう。
 まず、基調報告という形で、3人の報告者から、スーパービジョンを実践するにあたり苦労していること、うまくいかないことについて報告がありました。いずれも難しい問題が報告されました。
 基調報告を受けて、今回のワークショップでは、①意識していなくても実践していたスーパービジョンに気づく、②問題点の解決策を見いだす、③自分が実践できるスーパービジョンを具体的に考える、ということを目的に行いました。

 各グループから出された意見を総合すると、「スーパーバイジーにいかに気づいてもらうか」、「組織にいかにスーパービジョンを浸透させるか」といったことが二大課題のようでした。そうした課題が明らかになり、各グループで具体的にどうすればいいのかについて話し合いました。

 最後には、グループでの話し合いをもとに、自分は具体的にこれから何をするのかを大きな名札に書き、グループのメンバーに決意表明をしました。

 実現されることを祈っています。

 12日は、2つの会場に分かれて、スーパービジョン実践報告会を行いました。合わせて8件の実践が報告され、質疑応答が行われました。
 個別の職員へのスーパービジョン、職員集団へのスーパービジョン、初任者研修プロジェクトチームの取り組み、事例検討会としての取り組み、また、教育的な取り組み、仲間としての支持的な取り組み、スーパーバイザーとしての内面の変化・自己覚知、さらには、ピアスーパービジョンの取り組みを社会福祉士会の全国大会で自主企画シンポジウムとして企画したプロセスなど、多様な報告が見られました。

 スーパービジョンが必要だと言われて久しいですが、なかなか浸透しない。やっていてもやっていると胸を張って言えない現状がある中、改めて、実践報告を積み重ね、多くのモデルを見聞きすることの大切さを実感しました。

 とりわけ、全国規模の大会でシンポジウムを企画するに至った経緯を聞くと、「頑張ればここまでできる」ということを教えられ、勇気づけられました。

 多くの参加者たちは、自主的に勉強会をするチームを持っています。そうした自主勉強会や合同フォローアップ研修会が、スーパービジョンを意識してやってみて、うまくできていても、できていなくても報告して、仲間たちからスーパービジョンを受ける機会になればと願っています。

 参加されたみなさん、お疲れさまでした。また来年お会いしたいと思います。

 企画運営してくださった実行委員のみなさま、本当にありがとうございました。

 個人的には、ボクの研修を受けて、苦労しながらも、壁を感じながらも実践して、うまくいかなくて悩み、うまくいっては喜び・・・・そんなみなさんの姿を心で感じながら、ボクは自分の存在意義を感じています。それが、ボクのエネルギーになっています。みなさんに感謝です。



2012年08月06日(月)

東京、民生委員・児童委員さんの研修会
 今日は、昼から東京で、民生委員・児童委員さんたちの研修をしていました。130数人の受講者たち。全国各地の第一線で活躍されているわけですが、悩みも多いようです。

 人格が高潔で・・・・、望まれることは、非常にレベルが高い。民生委員となった1年生であっても、地域の住民にすれば、ベテラン民生委員と同じ。

 たとえ、ベテラン民生委員さんであっても、専門的な福祉教育を受けたわけではなく、地域から望まれる支援に、専門的に充分応えられない。

 民生委員さんは、みな一生懸命なのです。今までの自分の経験を頼りに、一生懸命住民とかかわります。しかし、地域の人々が抱える問題は、今日複雑で多様化し、今までの経験では、なかなか充分に対応できない。そんな現状が見えてくると、民生委員さん自身しんどいでしょうね。

 全国で23万人の民生委員さん。日本中、どこの市町村に行っても、民生委員さんはおられます。したがって、福祉の担い手としては、最も大きな戦力になるはず。

 個々の民生委員さんが、高度な専門教育を受けることができれば・・・・そう思いますが、研修システムが整ったとしても、講師の担い手がいない。

 福祉の担い手には専門性が必要だと、社会福祉士や介護福祉士、精神保健福祉士制度ができました。
 しかし、業務独占できる職業があるわけでもない。給料も安い。

 まるで、士農工商と呼ばれるように、武士の次に位置づけられた農民のような存在なのかと思ってしまいます。 



2012年08月01日(火)

徳島②
 昨日、7月31日は、徳島での研修2日目でした。グループに分かれ、実際にスーパービジョンをしていただきました。同じ研修を受ける仲間として、お互いに支え合い高め合う、そういった主旨でやってみました。
 みなさん、初めての試みでしたので、各グループに司会者を置きながらも、ボクが、時間を区切り区切り、司会者を導きました。

 終わってから、事例提供者全員にマイクを向け、感想を言っていただきました。全員、「すっきりした」「考えもしなかった方向性がでてきた」「すぐに帰ってでも取り組みたい」など、前向きな感想を持たれたようでした。

 感想を聞くとき、「よけいもやもやしました」って言われたらどうしよう・・・・といつも不安になるのですが、全員が前向きな感想だったので、本当によかった。ホッとしました。

 2日間でこの研修は、終わりましたが、これをきっかけに、それぞれ自分の職場に学ばれたことを持ち帰られ、何が実現可能か、上司や同僚と相談されながら、スーパービジョンを実践されることを期待しています。


 昨日は、徳島での研修を終え、東京までやってきました。本当は、今日8月1日の仕事のために、仙台まで行きたかったのですが、時間的に無理で、東京泊まり。寝るために7時間半ほど滞在し、今朝は早くに出発し、仙台にやってきました。 



2012年07月30日(月)

徳島にて
 社会福祉中堅職員研修のため徳島に来ています。

 昨日、一番暑い時間に奈良の自宅を出発。大量の汗をかきかき、最寄りの駅、近鉄西ノ京まで徒歩。タオルを首に巻いていたけど、とにかくすごい汗。

 電車の中は涼しかったけど、次第に汗の臭さが鼻を突いてきました。

 あまりに臭いので、三ノ宮で着替え、高速バスに乗る。バスでは、隣に座る人と密着するので、臭いを発していたのでは申し訳ないという気持ちからでした。

 隣に座ったお兄さん、巨漢も巨漢。場所を取るので、ボクにすごく気を遣っておられました。ふとお兄さんの顔を見ると、汗がたらたらと流れている。見るからに暑苦しい・・・・そのことも、お兄さん、かなり気にしておられる様子でした。

 お兄さんは、巨漢を可能な限り縮め、ボクに迷惑をかけないようにしている。気の毒に、と思いながらも、巨漢が可愛く思えてきた。

 明石海峡大橋、鳴門海峡大橋、久しぶりに2つの大きな橋を渡ったけど、海のない奈良で育ったボクとしては、キラキラととにかく美しい海に感動。

 無事、徳島に着いて、まず、楽しみにしていた徳島ラーメンを食べました。徳島ラーメンといえば、ボクの頭の中では生卵。なかなかボリュームもあり、おいしかった(^^)


 さて、今日と明日は、社会福祉施設の中堅職員さんの研修。内容は「スーパービジョン」。昨年まで、ボクの恩師が10数年間担当していた研修。今年は、恩師の都合でボクが担当することになったけど、大きなプレッシャーでした。

 受講者のみなさんは、静かにとにかく熱心にボクの話しを聞いておられる。昼からのビデオ演習では、深い意見がいっぱい出てきた。

 明日は、実際にグループごとにスーパービジョンをしてみるけど、何か感触をつかんでくださったらって思います。



2012年07月20日(金)

連載が単行本になります
 しばらくサボってしまいました。

 このところ、原稿、出張、資料作りに追われていたのは事実ですが、サボっていたのも事実。すみません(><)

 『ふれあいケア』で連載してきました「誌上ロールプレイング 職場のあなたの物語」は、今年秋、単行本として出版することになりました。まだ、書名も決まっていませんが、原稿を5倍ぐらいに膨らませ、ほぼ書き下ろしました。物語をずいぶん充実させ、読み応えがあるのではないかと思います。
 連載では登場しなかった人物も登場しています。『奈都子の夢』に登場している草加慎二先生です。プロローグとエピローグに講師として登場しますが、物語を解説するという大切な役割も担っています。

 どうぞ、お楽しみに・・・・・・

 今後しばらく、お勉強ブログは、講演や研修の報告をしていきたいと思います。あちこちに出かけていますので、その土地土地の魅力も紹介できたらと思っています。



2012年07月01日(日)

『ふれあいケア』2012年4月号②

自己覚知の効用

 自己覚知は、多くの場合、他者とのコミュニケーションを通して深まります。効果的に深めていくためには、まず、お互いに相手の立場に立って否定せずに話を聴くことが大切です。つまり、主張し合うのではなく聴き合うのです。すると、お互いに冷静になり、相手の感情や価値観が生じてきたメカニズムを知ることができます。そして同時に、自分のメカニズムも改めて確認することができるのです。これは、お互いに、客観的に自分と相手を眺めている状態だといえます。

この物語は、小柴さんが、トラブルの渦中にいる当事者の話をよく聴くことで、当事者が自己覚知を深めるというところから始まりましたが、小柴さんのかかわりは、やがて当事者同士がコミュニケーションを通して自己覚知を深めるモデルとなっていくのです。

さて、自己覚知が深まる過程で、いろいろ不思議な現象が起こっています。

柳田さんが、島田さんの話を聴いていて、島田さんと自分を比較し、自分とよく似た劣等感がある一方で、劣等感から身を守る方法がまったく違うことに気づきました(12月号)。このことは、相手を理解し、相手とのよい関係をつくるきっかけとなる不思議な現象です。

江藤さんが、柳田さんを中心としてユニットがまとまり始めたこと、島田さんや本沢さんが成長してきたことで、孤独感を感じ、自分だけが成長していないと感じ、精神的に落ち込みました。一方で、恩人である谷口さんに定期的に話を聴いてもらえると決まっただけで、がぜんやる気を出し、卑屈な自分がうそのように思えてきました(1月号)。これは、「人間」は、おのずと「人と人との間」に立ち、複雑な内面の相互作用を経験している象徴として不思議な現象です。また、精神的な落ち込みや高揚のメカニズムを知るための象徴的な現象だともいえるでしょう。

こうした現象を体験しながら自己覚知が深まります。そして、自分を認め、他者を認めることができるようになるのです。それが、トラブル解決につながります。いわば、トラブル解決と自己覚知は、セットのようなものなのかもしれません。自己覚知が深まると自ずとトラブルが解決し、つながりが深まるのです。

 

おわりに

 人が複数集まり、集団を形づくると、自ずとトラブルが生じます。必ず起こると思っておいた方がいいかもしれません。トラブルを解決することによって、つながりが深まり、同じ方向を向いて一丸となった「仲間集団」に成長するのです。

 森本さんの「職員の人間関係が深まり、お互いに支え合い、高め合う。そんな仲間集団として、これからも一丸となって、利用者さんを支援していきましょう」という最後の言葉には、「自己覚知」、そして「トラブル解決」の行き先が示唆されています。




2012年06月25日(月)

『ふれあいケア』2012年4月号①

 10回に渡り、特別養護老人ホームN園で起こるさまざまな人間関係のトラブルの「物語」を取り上げ、その解決方法について紹介してきました。最後に、「物語」を振り返り、整理しておくことにします。

 

トラブル解決から成長への物語

 N園では、性格や価値観の違い、専門性の違い、立場の違いなどから、さまざまな人間関係のトラブルが発生しました。スーパーバイザー養成研修を受講し、「相手の立場に立って話を聴くこと」、「相手を理解しようとすること」、そして、そのことを通して「お互いに自己覚知を深めること」などの大切さを感じていたフロア主任の小柴礼子さんは、トラブルが起こるたびに、それらを自ら実践しました。

 小柴さんが、トラブルの渦中にいる当事者の話を聴くと、それぞれの感情や考え方の背景やメカニズムが見えてきました(6月~9月号)。

「決して誰も間違っていない」。小柴さんは、誰も責めませんでした。こうした小柴さんの姿勢と話の聴き方に影響を受け、当事者たちは、その後、徐々にではありますが、お互いを認めることができるようになりました。

 小柴さんが、何かと影響力の強い介護課長の谷口和代さんに理解を求め、率先してよい雰囲気作りのために動いてもらおうとしたことには、大きな意味がありました(10月号)。

谷口さん自身、職員の話を努めて聴いていくと、自分自身の「聴く技術」の未熟さを痛感しました。その未熟さから精神的に落ち込みましたが、それを救ったのは、江藤直美さんでした。そもそも江藤さんが、谷口さんのところに話を聴いてもらおうと訪れました。江藤さんは、もちろん谷口さんに救われたのですが、逆に、谷口さんも救われました。新人の頃から気にかけていた江藤さんが相談に来てくれたこと自体うれしかった。でもそれだけではなく、落ち着きとやる気を取りもどした江藤さんを見て、話を聴くコツをつかめたような気がしましたし、江藤さんに逆に支えてもらったような気がしました(1月号)。

また、ユニットリーダー柳田啓介さんの成長には目を見張るものがありました。柳田さんは、小柴さんや谷口さんとの話し合い(11月号)で、人間関係を営む基礎は、過去の体験からつくられること。しかし、それは、あとから変えることができることを学びました。そこで、今まで小柴さんが自分にかかわってくれた感覚を思い出して、相手とかかわったらよいことに思い当たりました。

その後、柳田さんは、看護師の宮本さんや、以前は柳田さんを非難していたパート勤務の須藤さんまでもが見直すほど、リーダーとして成長していきました。そして、陰口を聞いて精神的に落ち込んでいた島田省吾さんの話を上手に聴くことができました。そのおかげで、島田さんは元気を取りもどすことができました(12月号)。江藤さんが、自分自身の力で、本沢奈都子さんとの関係を取りもどしたのも、柳田さんの仲介があったからです(2月号)。

このように、小柴さんが、トラブルを解決しようと当事者に話を聴くことから始まり、谷口さんの変化、そして、柳田さんをはじめ若い職員の成長へと、物語は展開することになりました。

さて、物語ではあまり描写しませんでしたが、施設長の森本良也さんが各職員に与えた課題の効果も見逃せません。リーダー以下の職員には、二人一組での勉強会、主任の小柴さんと看護師の宮本さんには、業務改善と人材育成案の作成といった課題でした(10月号)。

こうした課題を通して、各職員が専門的な知識を身につけただけではなく、職員間のコミュニケーションが豊かになりました。「勉強会の成果は、すでに現れていると感じました。こんなに雰囲気よく報告会が進められたのは、その証拠だと思います」。年度末の報告会で、森本さんが締めくくった言葉がそれを象徴しています(3月号)。個々の職員の成長だけではなく、職場集団の成長が図られたといっても過言ではないでしょう。

ただ、この課題をめぐって、森本さんと谷口さんの間に一悶着がありました。管理職同士のトラブルは、現場に混乱をもたらします。現場への影響を考え、一丸となっていただきたいものです(10月号)。




2012年06月15日(金)

『ふれあいケア』2012年3月号③

問題解決に向けて

 物語の最後第10話では、施設長の森本さんが職員に課した勉強会の報告会、中でも、柳田さんと本沢さんの「対人援助職の自己覚知」を取り上げました。

 長く怪我で休んでいた谷口さんが10月に復帰したとき、谷口さんと森本さんの間に一悶着がありましたが、小柴さんの仲立ちで、勉強会が存続することになりました。そして、無事、年度末を迎え、報告会をすることになりました。

 柳田さんと本沢さんが、「自己覚知」をテーマとして取り上げたのは、小柴さんの勧めがあったからです。小柴さんは、将来を見越し、自分が研究したかったことをこの2人に託しました。

 さて、復帰後の谷口さんの活躍は、目を見張るものがありました。「現場の職員が専門的な知識を身につけないといけない」という森本さんの考えを認めたこと(11月号)、江藤さんの悩みをうまく聴き、定期的な面談を実施したこと(1月号)、柳田さんに間に入ってもらい、江藤さんと本沢さんの話し合いを進言したことなどです。その背景には小柴さんの支えがありました。さらに、若い職員のめざましい成長の兆しがありました。これらは、相乗効果で良い方向に向かいました。

 谷口さん自身、「自己覚知」の大切さを最も実感した人だったのかもしれません。部下たちの報告や意見交換、そして小柴さんのまとめによって、それが頭の中で整理されたことでしょう。

 この報告会で、森本さんは、施設長として安心を得たに違いありません。




2012年06月10日(日)

『ふれあいケア』2012年3月号②

「須藤さんや宮本さんは、いかがですか?」

 司会の谷口は、発言を促した。

「はい。以前、島田さんとトラブルがあったとき、小柴さんに話を聴いてもらって、なぜ、島田さんに対して腹立たしくなっていたのかがわかりました(7月号参照)。あのとき、人に聴いてもらうことで、自分のことに気づくということがわかりました。つまり私の場合は、島田さんに対して感じていることを言葉にして表現して、小柴さんから『○○な気持ちだったのね』って返してもらうことで、自分の気持ちの背景について、ハッと気づいたんです」

 須藤が答えた。

「私は、看護師として、介護職の皆さんの健康に対する意識が低く感じ、腹立たしく思ったことがありました。柳田さんと衝突しましたよね(8月号参照)。あのとき、やはり小柴さんに話を聴いてもらい、意識の問題ではなく、専門性の違いから生じたトラブルだと気づいたのです。違いを知ることによって、介護職の皆さんを認められるようになりました」

 宮本が答えた。そして、引き続き意見交換が行われた。

「ずいぶん、たくさんの意見が出ましたが、そろそろ時間ですので、まとめておくことにします。小柴主任、よろしくお願いします」

「えっ、私がまとめるんですか?」

「ちょっと私には荷が重いので、小柴さん、お願い!」

 谷口のお願いは、メンバーの笑いを誘い、雰囲気がより和やかになった。

 小柴は、自己覚知は、他者とのコミュニケーションを通して深まること、それは、自分自身を知ることだけではなく、相手を知ることにつながること、そして、良好な人間関係につながること。しかし、自分自身を深く知ることによって、つらくなるなど、心に痛みを感じることがあること、それを軽くするためにも、話しを聴いてもらうことが大切なことなどについてまとめた。

 谷口は、小柴に礼を言い、次の報告に移っていった。江藤と島田による「介護を通したコミュニケーション」、小柴と宮本それぞれによる、業務改善と人材育成についての報告が行われた。最後に、森本施設長が締めくくった。

「皆さん、この一年は本当にご苦労さまでした。皆さんの報告を聞いて、勉強会の成果は、すでに現れていると感じました。こんなに雰囲気よく報告会が進められたのは、その証拠だと思います。職員の人間関係が深まり、お互いに支え合い、高め合う。そんな仲間集団として、これからも一丸となって、利用者さんを支援していきましょう」




2012年06月05日(火)

『ふれあいケア』2012年3月号①

「それでは、これから、課題の報告会をいたします。日常業務の合間を縫っての勉強会でしたので、ずいぶんご苦労があったと思いますが、今後も継続していく中間報告のつもりで報告していただければと思います」

 森本良也施設長があいさつした(10月号参照)。司会は、介護課長の谷口和代が務めた。

 ユニットリーダーの柳田啓介と新人の本沢奈都子は、「対人援助職の自己覚知」について研究してきたことを報告した。対人援助は、感情が動かされやすい仕事であること、つい自分の感情にしたがって相手の言動の良し悪しを判断してしまうこと、それゆえに、対人援助職は自分自身の感情や性格の傾向をよく知り、自分をコントロールできるようになる必要があること・・・・・・。資料は図式化され、非常にわかりやすいものだった。

 その後、意見交換が行われた。

「自己覚知は、利用者さんとの関係だけではなく、職員同士の関係にも非常に大切だと思いました」

 まず、島田省吾が、以前、柳田に話を聴いてもらいスッキリしたこと、その後、須藤公子や宮本香江に積極的に話しかけることができるようになったことを振り返りながら話した。柳田も、島田と話したことで、自分自身新しい発見や気づきがあり、自己覚知が深まったことを話した(12月号参照)。

「私は、自己覚知の入口、つまり自分のことを深く知ることでつらくなりました。嫌な自分、情けない自分と改めて向き合ってしまったんです。それまでは無意識のうちに向き合うことを避けてたんですが、もう避けられないと思い、本当に落ち込みました」

 江藤直美は、以前、谷口課長に話を聴いてもらうことになった直前のつらかった気持ちを思い出しながら話した(1月号参照)。

「江藤さん、今、『それまでは無意識のうちに向き合うことを避けてた』って言ってたけど、もう少し詳しく聴かせてくれない?」

 今まで無言だったフロア主任の小柴礼子が、江藤にさらに話すことを促した。

「はい。それまでも、自分自身のコンプレックスには気づいていたんですが、それに向き合うことを避けるために、後輩である本沢さんや島田さんの劣っているところを見つけて優越感に浸ってたんです。そんな自分がとても嫌で、余計につらくなりました・・・・・・」

「わたしのところに相談に来たとき、あなたは本当につらそうだったわね。でも、相談に来てくれてよかった。あなただけではなく、私もあなたに助けられたのよ」

 谷口が江藤に言った。

「私に助けられたって、どういうことですか?」

「私はね、小柴さんや柳田さんに比べて本当に話を聴くのが下手で、ずいぶん落ち込んでたのよ。でも、あなたが相談に来てくれて話を聴くと、あなたはとても喜んでくれたじゃない。それで、私は自信をもつことができたの。あなたのおかげよ」

 江藤と谷口のやりとりを聴いていた柳田、本沢、島田、それに、パートの須藤、看護師の宮本までもが、納得するかのようにうなずいていた。


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